発売日:
1989年
レーベル:
ポニーキャニオン
プロデュース:
リチャード・カーペンター
1989年、日本の音楽ファンにとって忘れがたい出来事がありました。それは、カーペンターズの歴代作品を網羅したCDボックス・セット『カーペンターズ・コレクション』の発売です。このボックスは、カーペンターズの全盛期を愛してやまない人々にとって、まさに夢のようなセットでした。
CDという新しいメディアが普及し始めた時代に登場したこのボックス・セットは、ただの再発売ではなく、いくつもの新しい試みとファンへの思いが込められていました。今回は、この『カーペンターズ・コレクション』について、その内容や特徴、当時の音源評価やファンの反応などを詳しくご紹介します。
『カーペンターズ・コレクション』は、カーペンターズが1970年に発表したデビュー・アルバム『涙の乗車券(原題:Ticket to Ride)』から、カレンが亡くなった後の1983年に発表された『ヴォイス・オブ・ザ・ハート(Voice of the Heart)』までの全10枚のオリジナル・アルバムをCDで網羅しています。
ただし、正確に言えば、これらのオリジナル・アルバムのCDは、このボックス・セットの発売前にすでに日本で個別にCD化されていました。つまり、このボックス・セットはそれらを一つにまとめ、特別な形で再構成した初のコレクションとなったのです。
それまで日本では、アナログ盤やカセットテープが主流で、CDでカーペンターズの音楽を楽しむには限られた選択肢しかありませんでした。そのため、このボックス・セットの登場は、当時としては非常に画期的な出来事でした。まとめてカーペンターズのアルバムを揃えたいファンにとって、大きな魅力となったのです。
このボックス・セットにはもうひとつ大きな特徴があります。それは、『ライブ・イン・ロンドン(Live in London)』が世界で初めてCDとして収録されたという点です。
『ライブ・イン・ロンドン』は1976年、イギリスのロンドンにあるパラディウム劇場で行われたライブ公演を音源化したもので、これまでは映像や一部の音源でしか愉しむことができませんでした。このCD化によって、ファンは初めて、カーペンターズがイギリスで披露したステージの空気を、音だけでじっくり味わうことができるようになったのです。
これまでカーペンターズのライブ・アルバムといえば、1974年に日本で録音された『ライヴ・イン・ジャパン』が有名でしたが、それとはまた違った雰囲気が味わえる『ライブ・イン・ロンドン』の登場は、ファンにとってとても新鮮な驚きでした。
さらに、このボックス・セットには**当時未発表だった2曲、「ホノルル・シティ・ライツ」と「スロー・ダンス」**を収録した特別ディスクも含まれています。
「ホノルル・シティ・ライツ(Honolulu City Lights)」は、カレンとリチャードが1980年頃に録音していたにもかかわらず、長い間お蔵入りしていた楽曲。穏やかなメロディとカレンのしっとりとした歌声が心に残る作品です。
「スロー・ダンス(Slow Dance)」は、よりポップなアレンジが施された一曲で、リチャードのセンスが光ります。どちらも通常のアルバムには収録されておらず、このボックス・セットで初めて聴けるという点で、特典としての価値は非常に高いものでした。
付属のブックレットもファンにはたまらない内容でした。全アルバムについての詳しい解説に加え、すべての歌詞とその対訳が収録されており、英語が苦手な人でも楽曲の意味を深く理解できるようになっています。
また、このブックレットは、1989年当時に日本で発売直前だった『愛の軌跡〜ラヴラインズ(Lovelines)』のCDが後から収納できるように設計されており、ページを取り外すことでラヴラインズのCDをボックスに収められるようになっていました。
このアイデアは、2009年に発売された『40周年記念ボックス』にも引き継がれ、そちらではドキュメンタリーDVD『リメンバー・ザ・カーペンターズ』を収納できるスペースが用意されていたのです。日本ならではの細やかな工夫とファンへの配慮が、このブックレットからも感じられます。
この時期、カーペンターズの楽曲はリチャード・カーペンター自身の手によってCD用に再構築されていました。
それは単なる音質向上ではなく、シングル・バージョンをアルバムに入れたり、リミックスを施すなど、内容そのものに手を加える大胆な作業でもありました。
しかし、この変更に対しては賛否両論がありました。一部のファンからは、「当時のアナログ盤で聴いていた音が変わってしまった」「あの頃の雰囲気が失われた」といった声があがりました。
つまり、音質的にはクリアになっていても、“思い出の音”が変わってしまったと感じた方が多かったのです。
こうした意見を受け、オリジナルの音源が忠実に復元されたのは、1998年にリリースされたリマスター盤以降のことでした。それまでの約10年、CDで聴けるカーペンターズの音楽は、少なからずリチャードによる“改訂版”だったのです。
このボックス・セットは、外装デザインにも特別なこだわりがありました。白地にカーペンターズのロゴと「COLLECTION」の文字が金箔で押されたシンプルで上品なパッケージは、ファンの間で「白箱(しろばこ)」という愛称で呼ばれています。
見た目の美しさや高級感のある装丁は、多くのファンの目を引きました。価格も当時としては高価な30,000円という設定でしたが、それでもコレクション性の高さから購入に踏み切ったファンは少なくありませんでした。
しかし一方で、収録された音源に対しては厳しい意見も多く寄せられました。リマスターなどの音質改善は行われておらず、すでに発売されていたCDと同一の音源であったことにがっかりしたという声もあります。とくにアナログ盤で親しんできたファンの中には、「当時親しんだ音ではない」と感じた人もいました。
この「白箱」は、のちに発売される『30周年記念ボックス』や『35周年記念ボックス』などのボックス・セットと比べると、内容的にも装丁的にもまだ試行錯誤の段階であったと言えます。いわば、本格的なボックス・セットが登場する前の“最初の試み”として位置づけられる存在です。
今なお大切に所有しているファンも多いこの「白箱」は、カーペンターズのCD時代の幕開けを象徴するひとつのアイテムとして、静かに語り継がれています。
『カーペンターズ・コレクション』は、単なるアルバムの詰め合わせではなく、**ファンとカーペンターズの音楽をつなぐ「架け橋」**となるような存在でした。初めてのCDボックスという位置づけもあり、特典ディスクや初CD化音源、豪華ブックレットなど、その内容はとても充実しています。
また、日本のファン向けに考え抜かれた仕様や工夫も随所に見られ、音楽を大切に愉しむ文化の中で生まれた逸品であることがよくわかります。
時代が進み、音楽の聴き方が変化しても、この「白箱」の存在は、今なお色あせることなく、カーペンターズの魅力を語る上で欠かせないアイテムのひとつです。CD時代の幕開けにふさわしい、温もりのある一箱として、多くの人々の心に残り続けています。
デビュー作『オファリング(Offering)』を改題し、ヒット曲を前面に打ち出した新装盤。シンプルながらも奥深い、初期カーペンターズの瑞々しいポップ・センスが光るエッセンシャル・ピース。
不朽の名曲「遥かなる影」を収録。バート・バカラックとの出会い、そしてリチャードの緻密なアレンジが結実し、彼らを一夜にして世界のトップスターへと押し上げた金字塔。
「雨の日と月曜日は」「スーパースター」など、切なさが溢れる名曲が並ぶ。カレンの憂いを含んだヴォーカルが、聴く者の孤独を優しく包み込む初期の名作。
「トップ・オブ・ザ・ワールド」「小さな愛の願い」収録。リチャードのプロデューサーとしての手腕が冴え渡り、カレンの歌声が最も美しく響く、70年代ポップスの最高傑作。
「イエスタデイ・ワンス・モア」を軸に、古き良きオールディーズへの愛を綴ったコンセプト・アルバム。ラジオから流れる思い出のように、温かくて少し切ない、永遠のスタンダード。
「プリーズ・ミスター・ポストマン」の快活さと、繊細なバラードが同居。多重録音の技術が頂点に達し、カーペンターズ・サウンドが最も贅沢に、そして緻密に構築された秀逸作。
表題曲をはじめとする優美なカバーが心地よい。カレンの歌声はより深みを増し、私たちの心にそっと寄り添うような安らぎを与えてくれる、癒しのマスターピース。
カントリー、ジャズ、そして壮大なSF組曲まで。ポップスの枠を超え、音楽性の幅を大胆に広げた意欲作。彼らの底知れぬ才能と音楽への探究心が爆発した、隠れた名盤。
80年代の幕開けと共に届けられた、カレン存命時最後のスタジオ・アルバム。磨き上げられたモダンなサウンドと、変わらぬ透明感のある歌声が、新たな希望を予感させた一枚。
ヴォイス・オブ・ザ・ハート Voice Of The Heart
カレンがこの世を去った後、リチャードの手によって完成された追悼盤。一言一言を噛みしめるように歌うカレンの歌声が、聴く者の胸に深く、切なく語りかけてくる。
ライヴ・イン・ロンドン Live At The Palladium
1976年、パラディウム劇場でのパフォーマンス。洗練されたステージングと、息の合ったバンド・アンサンブル。世界を虜にした彼らの実力を証明する、熱気溢れる一夜。
ホノルル・シティ・ライツ/スロー・ダンス
Honolulu City Lights / Slow Dance
村田 博幸
Hiroyuki Murata
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