オールド・ファッションド・クリスマス

An Old-Fashioned Christmas

  • 初回発売日:
    1984年10月26日

  • レーベル:
    A&M

  • プロデュース:
    リチャード・カーペンター

クラシックな趣を前面に打ち出したカーペンターズ2枚目のクリスマス・アルバム

カーペンターズは、その端正なメロディと整え抜かれたハーモニーによって、数多くの印象的な楽曲を世に送り出してきました。
1984年に発表された2枚目のクリスマス・アルバム『オールド・ファッションド・クリスマス』は、そうした彼らの音楽観が、最も静かで、最も誠実な形で結実した作品と言えます。

タイトルが示す通り、本作が目指したのは華やかさや新しさではなく、昔ながらのクリスマスが持っていた落ち着きと節度です。賑やかな街の喧騒から一歩距離を取り、家庭や教会、そして冬の夜の静けさへと意識を戻してくれるような構成が、アルバム全体を貫いています。

アルバム制作の背景

『オールド・ファッションド・クリスマス』は、1983年にカレンが亡くなった後に世に出た作品です。そのため、制作の成り立ちを語る際には、どうしても慎重さが求められます。しかし本作は、単に残された音源を寄せ集めたものではありません。1978年に発表された『クリスマス・ポートレイト(Christmas Portrait)』に続く作品として、以前から構想されていた企画が、時間をかけて形にされたものです。

リチャードは、姉の歌声が持つ柔らかさや温度を、どのように伝えるべきかを常に考えながら作業を進めました。派手な装飾で包み込むのではなく、むしろ余分な要素をそぎ落とし、旋律と声が自然に響く空間を整えることに重きを置いています。

このアルバムに収められた歌唱は、時期も録音環境も異なる素材から構成されていますが、アルバム全体を通して聴いたときに違和感を覚えさせないよう、細心の注意が払われています。その結果、曲ごとの時代差や技術的条件の違いは意識されることなく、一つの穏やかな流れとして受け取ることができる仕上がりとなっています。

リチャードによる音の設計

このアルバムにおいて、リチャードの役割は極めて重要です。彼は編曲や構成を通じて、カレンの声を「前に出す」ことよりも、「自然にそこに在る」状態へと導いています。

本作はリチャードが最も得意とするクラシックのアレンジをフルに活かした作品であり、そこには彼らの信仰の根幹ともいうべき「主の祈り(The Lord's Prayer)」を彷彿とさせる、敬虔で崇高なアレンジが随所に組み込まれています。

リチャードとカレンの両親は敬虔なクリスチャンであり、二人は幼い頃から教会の聖壇から流れる賛美歌や祈りの言葉を日常として育ちました。こうした環境で培われた深い信仰心は、たとえ時を経て具体的な演奏の記憶が意識の表層から離れたとしても、音楽家としての無意識の中に深く刷り込まれています。本作で聴けるオーケストレーションが、決して前に出過ぎることなくカレンの歌声を静かな祈りのように包み込んでいるのは、彼らの魂の深淵に刻まれた「祈りの原風景」が、プロフェッショナルな音楽表現として自然に溢れ出した結果と言えるでしょう。

また、本作では宗教曲、世俗的なクリスマス・ソング、そしてクラシック音楽が一つのアルバムの中で共存しています。それらを無理に統一しようとするのではなく、「同じ季節の中に存在する異なる表情」として並べている点に、この作品の成熟した視点が感じられます。

クラシック色を強めた構成

『オールド・ファッションド・クリスマス』を特徴づけている要素の一つが、クラシック音楽の比重の高さです。《くるみ割り人形》組曲の抜粋を含め、歌を伴わない器楽曲がアルバム後半に配置されていることは、本作の性格を象徴しています。

言葉による意味付けから離れ、音そのものに身を委ねる時間を設けることで、聴き手の意識は自然と内側へ向かいます。これは祝祭を高揚感で締めくくるのではなく、静かな余韻の中で終わらせようとする、この作品ならではの選択です。

収録曲の選択と配置

このアルバムに収められた楽曲群は、知名度の高さだけで選ばれているわけではありません。教会で歌われる賛美歌、家庭的なクリスマス・ソング、子どもの視点を持つ楽曲が、意図的な順序で配置されています。

A面冒頭のオーヴァーチュアでは、クリスマスが持つ多層的な側面が短時間で提示され、その後の曲順によって、賑わいから静けさへと自然に移行していきます。アルバム全体を通して聴くことで、時間帯が夕方から夜へ、そして深夜へと移り変わっていくような感覚が生まれます。

アナログ盤のプレス体制について

『オールド・ファッションド・クリスマス』が発売された1984年頃は、レコードの作られ方そのものが大きく変わりつつあった時代でした。A&Mでも、以前のように特定の工場に任せきりにするのではなく、状況に応じて複数の工場で同時にプレスする体制が取られていました。この作品にも、RCA系の工場で作られた盤や、エレクトロサウンド(ES)系の工場に割り当てられた盤が確認できます。

刻印を見ていくと、インディアナ州を拠点とするESの流れをくむ盤が含まれており、同じES系でも需要に合わせて生産拠点を自然に振り分けられていた様子が伝わってきます。どの盤も内容はまったく同じで、優劣があるわけではありません。ただ、盤の内周に残された小さな違いからは、アナログ盤が少しずつ特別な存在へと移っていく、その時代の空気をそっと感じ取ることができます。

心温まるクラシックなクリスマスの贈り物

『オールド・ファッションド・クリスマス』は、カーペンターズの音楽が持つ温かさとクラシックな美しさが詰まったアルバムです。カレンの澄んだ歌声とリチャードの卓越したアレンジメントが見事に融合し、聴く者に心温まるクリスマスのひとときを提供してくれます。このアルバムは、クラシックなクリスマス音楽を愛するすべての人々にとって、欠かせない一枚となることでしょう。カーペンターズの音楽は、時を超えて多くの人々に愛され続け、その魅力は今もなお色褪せることなく輝き続けています。『オールド・ファッションド・クリスマス』は、その魅力を存分に味わうことができる、まさに宝物のようなアルバムです。

このアルバムからのシングル・カット

  • リトル・オルター・ボーイ

  • サンタが街にやってくる

著者コレクション

EMW A&M SP03270-A ES1
EMW A&M SP03270-B ES1

その他コレクションを見る

曲目リスト

* 曲目は初回盤に基づいて表記しています。
* シングル・チャートは特に記載がない限り、ビルボード・ホット100を参照しています。
* 曲目解説にある讃美歌は特に記載がない限り日本キリスト教団出版局発行の『讃美歌・讃美歌第二編』、および『讃美歌21』を参照しています。

作品を購入する

村田 博幸
Hiroyuki Murata
>> プロフィールを見る