クリスマス・ポートレイト

Christmas Portrait

  • 初回発売日:
    1978年10月13日

  • レーベル:
    A&M

  • プロデュース:
    リチャード・カーペンター

カーペンターズ初のクリスマス・アルバム

1978年、カーペンターズは待望のクリスマス・アルバム『クリスマス・ポートレイト(Christmas Portrait)』を発表しました。この作品は、カーペンターズにとって初めての本格的なクリスマス・アルバムであり、長年にわたって温められてきた構想が形になった一枚でもあります。彼らならではの端正で温かみのあるサウンドと、クリスマスという特別な季節が持つ静けさや喜びが丁寧に結びついた作品として、発表当時から高い注目を集めました。

当時すでに数多くのヒット曲を世に送り出していたカーペンターズにとって、クリスマス・アルバムは単なる企画作品ではなく、自分たちの音楽性を別の角度から表現する重要な題材でした。華やかさだけを前面に出すのではなく、祈りや家庭的な温もりといった側面にも目を向けた内容は、他の季節作品とは明確に一線を画しています。

アルバムの背景

『クリスマス・ポートレイト』の制作背景には、カレンとリチャードが抱いていたクリスマスへの特別な思いがあります。特にカレンは、インタビューなどで「毎日がクリスマスでもいいと思うほど、この季節が好き」と語っていたことでも知られており、クリスマスの持つ雰囲気や精神性に強い親しみを感じていました。

彼らにとってのクリスマスとは、敬虔な両親のもと、幼い頃から教会の聖壇を身近に感じて育った家庭環境、その記憶と密接に結びついたものです。たとえ具体的な演奏の記憶を忘れていたとしても、信仰の根幹と言っても過言ではない「主の祈り(The Lord's Prayer)」を彷彿とさせる静謐な精神性は、彼らの音楽家としての無意識の中に深く刷り込まれていました。

そのため、このアルバムは流行に合わせて急いで作られたものではなく、彼らの血肉となった「祈り」と「祝祭」を最高純度で結晶化させるべく、長い時間をかけて内容が練られていった作品です。

1970年代を通じて、カーペンターズはポップス、バラード、スタンダードなど幅広い楽曲を手がけてきましたが、その活動の中で培われた表現力は、クリスマス音楽との相性が非常に良いものでした。柔らかく包み込むようなカレンのボーカル、そしてリチャードによる緻密で品のあるアレンジは、祝祭的でありながら落ち着いた世界観を作り出すことに成功しています。

アルバムには、古くから歌い継がれてきた賛美歌やキャロルと、比較的新しいクリスマス・ソングの両方が収録されていますが、その並びや構成には明確な意図が感じられます。単に有名曲を集めるのではなく、宗教的な楽曲と世俗的な楽曲が自然に共存するよう配慮されており、アルバム全体を通して一つの物語をたどるような感覚があります。

また、制作にあたってはオーケストラやコーラスが積極的に取り入れられていますが、音の厚みで圧倒するのではなく、あくまで歌を中心に据えた構成が保たれています。これにより、豪華でありながらも過剰にならない、節度ある仕上がりとなっています。

家族と過ごすクリスマスという視点

カーペンターズにとって、クリスマスは大規模なイベントというよりも、家族と静かに過ごす時間を象徴するものでした。その感覚は『クリスマス・ポートレイト』の随所に反映されています。たとえば、テンポの速い楽曲であっても、どこか穏やかさが残されており、にぎやかさ一辺倒にはなっていません。これは、リスニングの場を想定した作りであり、家庭のリビングや静かな夜の時間に自然となじむ音楽を目指していたことがうかがえます。

こうした姿勢は、アルバム全体に一貫した落ち着きを与えています。聴き進めていくと、華やかな場面と静かな場面が交互に現れ、感情の起伏が穏やかにコントロールされていることに気づきます。これはリチャードの構成力によるところが大きく、曲順や編成の工夫によって、長尺のアルバムでありながら最後まで集中して聴ける内容となっています。

「アヴェ・マリア(Ave Maria)」にまつわるエピソード

『クリスマス・ポートレイト』の中でも特に印象深い楽曲の一つが、アルバムの最後を飾る「アヴェ・マリア」です。この曲を録音するにあたり、カーペンターズはシューベルト版とグノー版のどちらを採用するかで慎重に検討を重ねたと伝えられています。シューベルト版は広く知られており、旋律の美しさで多くの人に親しまれている一方、グノー版はバッハの「平均律クラヴィーア曲集」の前奏曲に旋律を重ねた作品で、より厳かで宗教的な雰囲気を持っています。

最終的に選ばれたのはグノー版でしたが、その理由として、カレンの澄んだ声質とオーケストラによる荘重な伴奏との相性が挙げられます。アルバム全体の流れを考えた場合、祈りのような静けさを持つこのバージョンが、締めくくりとして最もふさわしいと判断されたのでしょう。

当初はオーケストラに加えてコーラスも用いた、より壮大なアレンジが構想されていました。しかし、録音されたコーラスのテープが紛失するという不運な出来事があり、結果としてコーラスなしの形で収録されることになりました。

一見すると残念な出来事のようにも思えますが、その結果生まれたシンプルな構成は、かえってカレンのボーカルを際立たせるものとなりました。余計な要素を排したことで、一音一音がより鮮明に伝わり、深い静寂と余韻を残す演奏に仕上がっています。

アルバムの特徴

『クリスマス・ポートレイト』は、カーペンターズの音楽の多様性とクリエイティビティを示しています。アルバムは、クラシックなクリスマス・キャロルからオリジナルソングまで幅広い楽曲を含んでおり、彼らの音楽的な才能が存分に発揮されています。さらに、オーケストラによる華やかなアレンジと、カレンの温かいボーカルが相まって、聴く者をクリスマスの魔法に包み込むような作品となっています。

このアルバムは、シンプルでありながらも豊かな音楽的表現を持ち、私たちを魅了します。特にカレンのボーカルは、彼女の他の作品と同様に、深い感情を伝える力があります。リチャードのプロデュース能力も光り、アルバム全体が一貫して高いクオリティを保っています。

また、アルバムにはカーペンターズらしいハーモニーやコーラスワークが随所に取り入れられており、彼らの音楽的なアイデンティティが色濃く反映されています。『クリスマス・ポートレイト』は、クリスマスシーズンに聴くのに最適な一枚であり、多くの家庭で愛される作品となっています。

クリスマス需要に対応した特別なプレス体制

『クリスマス・ポートレイト』は、プレス工場の顔ぶれを見ただけでも「いつもと違うな」と分かるアルバムです。70年代のA&M作品は、基本的にモナーク、サンタマリア、テレホート、ピットマンの4工場で回されていましたが、この作品ではその枠に収まりません。年末に一気に売れるクリスマス・アルバムという性格上、とにかく短期間で大量に出荷する必要があり、通常の体制だけでは間に合わなかったと考えられます。

そこで使われたのが、PRC(インディアナ州リッチモンド)などの外部工場です。マトリクスにPRC刻印やR1系の表記が入った盤は、その典型例と言えます。A&Mが余裕のあるラインを見つけ次第、とにかくプレスを進めていった様子が見えてきます。RCA系の刻印が確認できる盤が存在するのも、このアルバムならではの特徴です。

実際の盤を比べてみると、モナーク由来のデルタ番号を持ったまま別の工場でプレスされていたり、A面とB面で刻印の系統が違っていたりします。これはラッカーやメタルパーツを工場間で使い回しながら、空いている設備に次々と回していった結果でしょう。『クリスマス・ポートレイト』は、音楽だけでなく、当時のA&Mがどれほど本気で「クリスマスに間に合わせよう」としていたかが、マトリクスからも伝わってくるアルバムです。

クリスマスの温かさと喜びを詰め込んだ一枚

『クリスマス・ポートレイト』は、派手な演出で盛り上げるタイプのクリスマス・アルバムではありません。その代わり、静かな時間や家族とのひとときに寄り添うような音楽が丁寧に収められています。毎年クリスマスが訪れるたびに、変わらず手に取られ、同じように聴き返される理由は、こうした普遍性にあると言えるでしょう。

カーペンターズがこの作品に込めた思いは、時代を超えて伝わり続けています。『クリスマス・ポートレイト』は、クリスマスという季節を音楽で静かに味わうための、確かな一枚として今も多くの人のそばにあります。

このアルバムからのシングル・カット

  • クリスマス・ソング
    (1977年44位)

  • メリー・クリスマス・ダーリン
    (1970年クリスマス・シングル・チャート1位)

著者コレクション

カスタムインナースリーヴ有

A&M SP5189-M3 MR △23794
A&M SP5190-M1 MR △23794-X

カスタムインナースリーヴ有、プロモ盤、ジャケット右上にパンチホール有

A&M SP5189-M7 INT MR △23794
A&M SP5190-S1 MR △23794-X

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曲目リスト

* 曲目は初回盤に基づいて表記しています。
* シングル・チャートは特に記載がない限り、ビルボード・ホット100を参照しています。
* 曲目解説にある讃美歌は特に記載がない限り日本キリスト教団出版局発行の『讃美歌・讃美歌第二編』、および『讃美歌21』を参照しています。

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村田 博幸
Hiroyuki Murata
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