レインボウ・コネクション
〜アズ・タイム・ゴーズ・バイ

As Time Goes By

  • 初回発売日:
    2001年8月1日(日本先行)

  • アメリカでの発売日:
    2004年4月13日

  • レーベル:
    A&M - ユニバーサルミュージック

21世紀に甦ったカーペンターズの名曲と新たな魅力

カーペンターズの音楽は、1970年代の黄金期を彩り、世界中の人々の心に深く刻まれています。しかし、21世紀に入っても彼らの音楽は決して「過去の遺産」にはなりませんでした。そのことを鮮烈に証明したのが、2001年に日本で先行発売されたアルバム『レインボウ・コネクション〜アズ・タイム・ゴーズ・バイ』です。

本作は、1983年にカレン・カーペンターが世を去って以来、リチャード・カーペンターが長年温めてきた「未発表音源」を、21世紀という新しい時代のリスニング環境に合わせて丁寧に磨き上げた作品です。1989年の『愛の軌跡(Lovelines)』以降、正規のスタジオ・アルバムとしての「新作」が途絶えていた中で届けられた本作は、ファンにとって単なる未発表曲集という枠を超えた、特別な意味を持つ一枚となりました。

日本先行発売の背景と「特別」な編集

本作の特筆すべき点は、2001年に日本先行でリリースされたという事実です。この背景には、90年代半ばに日本で巻き起こった、世界でも類を見ない規模の再評価ムーブメントがありました。

1995年、野島伸司脚本のドラマ『未成年』の主題歌・挿入歌に「青春の輝き(I Need To Be In Love)」や「トップ・オブ・ザ・ワールド」が起用されたことで、カーペンターズの音楽は再びお茶の間に浸透しました。この機を捉えてリリースされたコンピレーション・アルバム『青春の輝き〜ベスト・オブ・カーペンターズ』(POCM-1540)は、洋楽としては異例の200万枚を超える爆発的なセールスを記録(2003年には300万枚を突破)。これにより、カレンの歌声をリアルタイムで知らない当時の10代や20代までもが、彼らの音楽を「自分たちの時代のもの」として共有する、極めて幸福な逆転現象が起こりました。

この熱狂的な「第2の黄金期」を経て、日本のファンは単なるヒット曲の享受に留まらない、彼らの音楽的な奥深さや歴史的背景に対する極めて成熟した理解を持つに至りました。2001年当時、リチャード・カーペンターがこの重要な未発表音源集の初披露の場に日本を選び、35周年という本国でのアニバーサリーを待たずに(35周年盤は2004年)リリースを決断したのは、こうした日本のファンに対する全幅の信頼と、特別な感謝の表れと言えるでしょう。

録音の変遷とリチャードのエンジニアリング

アルバムの内容を紐解くと、1967年の初期録音から1980年のテレビ・スペシャル用の音源まで、約13年にわたる彼らの足跡が収められています。これらの音源は、録音された年代もスタジオもバラバラであり、そのまま並べただけではアルバムとしての統一感を欠いてしまいます。

ここで発揮されたのが、リチャード・カーペンターの完璧主義的なエンジニアリングです。彼はマスターテープを現代のデジタル環境(24ビット・デジタル・マスタリング)で精査し、異なる年代の音源に共通の「カーペンターズ・トーン」を与えました。カレンの歌声が持つ中低音の温かみを損なわず、かつ21世紀のオーディオ機器で再生した際に不足を感じさせないレンジの広さを確保する――。この作業により、初期のデモ録音に近い音源であっても、あたかも「今、録り終えたばかり」のような瑞々しさを持って蘇りました。

初期音源に見る音楽的ルーツの露呈

本作の聴きどころの一つは、カーペンターズがプロとしてのスタイルを確立する以前の、剥き出しの音楽的ルーツを垣間見ることができる点です。

例えば、ビートルズの「ひとりぼっちのあいつ(Nowhere Man)」や、ママス&パパスの「夢のカリフォルニア(California Dreamin')」といったカバー曲は、彼らがまだ「スペクトラム」などの前身バンドを経て試行錯誤していた時期の録音です。ここには、後年の洗練されたポップスへと昇華される前の、よりロック的で、かつ緻密なコーラス・ワークへの執着が見て取れます。リチャードはこれらの初期テイクに対し、カレンの歌声の魅力を損なわない範囲で、21世紀のリスナーが違和感なく楽しめるよう、オーケストレーションやコーラスの再構築を施しました。これは、過去の音源を単に発掘するのではなく、現代の技術で「完成」させたと言っても過言ではありません。

メディアの変遷と「情報の密度」による差別化

70年代のカーペンターズ作品において、コレクターたちが注目するのは、モナークやピットマン、サンタマリアといったプレス工場ごとの音質の差異でした。しかし、2001年の本作においては、その舞台はデジタル・メディア(CD)へと完全に移行しています。

パッケージの構成に目を向けると、2001年の日本盤(UICY-1060)と2004年のアメリカ盤は、共に「リチャード自身による楽曲解説を掲載した4つ折り仕様のブックレット」を基本構成としています。このメイン・ブックレットには、リチャードの回想に基づいた貴重なエピソードが綴られており、日米共通の核となる資料となっています。

しかし、日本盤(UICY-1060)で決定的な差別化要因となっているのは、そこに封入された日本独自の別冊解説書です。ここには、カーペンターズ研究の第一人者である小倉悠加氏による緻密な解説と、リチャードの原稿に対する精確な翻訳が収められています。単なる直訳に留まらず、当時の録音環境や背景知識を補完する日本独自の視点が加えられている点は、情報の深度において日本盤を一段上のものとしています。

さらに、歌詞と対訳の完備といった日本盤伝統の手厚いホスピタリティは、かつてのLP時代に歌詞カードや対訳が不可欠であった「日本独自の受容文化」を、そのままCD時代へと継承したものです。2004年のアメリカ盤がアニバーサリー・アイテムとしての「簡潔なパッケージング」を志向したのに対し、2001年の日本盤は、リチャードの想いを一言一句漏らさず日本のファンへ伝えようとする、ユニバーサル・ミュージックによる徹底した編集姿勢が反映されています。こうした「解説の充実」こそが、物理的なギミックとはまた異なる、21世紀における日本盤の付加価値を定義づけていると言えるでしょう。

カレンの歌声:21世紀における親密さの再定義

なぜ、21世紀というデジタル・コミュニケーションが主流の時代に、カレンの歌声はこれほどまでに響くのでしょうか。それは、彼女の歌声が持つ「究極の親密さ(Intimacy)」にあります。

本作に収録された「レインボウ・コネクション」や「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」で聴けるカレンの歌唱は、マイクを意識させないほど自然で、聴き手のすぐ隣で語りかけているような錯覚を与えます。リチャードは本作の制作中、カレンの歌声の特定の周波数帯域が、デジタル化によって冷たくなってしまわないよう、最新の注意を払ったと語っています。その結果、私たちは18年の歳月を超えて、カレンという唯一無二の存在と、音楽を通じて「再会」することが可能になったのです。

日本との絆:30年の信頼がもたらした先行発売

1970年の日本デビュー以来、カーペンターズと日本のファンの間には、他国には見られない強固な絆がありました。カレンとリチャードが、自分たちの家の一部に日本庭園を作るほど日本文化を敬愛していたことは有名ですが、それは単なる趣味に留まらず、彼らの音楽の「繊細さ」や「哀愁」といった本質的な部分で、日本のファンと共鳴していたからに他なりません。

2001年当時、リチャードがこの重要なプロジェクトをまず日本に託したという事実は、30年以上にわたる「誠実な音楽のやり取り」の結果でした。かつて『オファリング』が『涙の乗車券』へと改題され、日本で独自の人気を博したように、あるいは「トップ・オブ・ザ・ワールド」が日本先行でシングル・カットされたように、本作もまた「日本という特別な地」での評価を足がかりに、世界へと放たれたのです。

普遍的な魅力と新たな感動

『レインボウ・コネクション〜アズ・タイム・ゴーズ・バイ』は、カーペンターズの音楽の普遍的な魅力を再確認させると同時に、新たな感動を提供するアルバムです。未発表曲や新たにアレンジされた楽曲を通じて、彼らの音楽は21世紀においても輝きを放ち続けています。

リチャード・カーペンターという稀代のクリエイターが、愛する妹カレンの歌声を最高の形で世に送り出すために費やした膨大な時間と情熱。その結晶である本作は、時代を超えて多くの人々の心に響き続けることでしょう。私たちがこのアルバムの再生ボタンを押すとき、そこには昨日までの懐かしさだけでなく、明日へと向かうための新しい勇気と癒やしが、確かに存在しているのです。

このアルバムからのシングル・カット

  • レインボウ・コネクション
    (2001年47位、日本のみリリース)

曲目リスト

  1. ウィザウト・ア・ソング
    Without a Song

    アルバムの冒頭を飾るこの曲は、静かで品のある始まり方が印象的です。アカペラで重なるカレンとリチャードの声は、余計な力が入っておらず、歌そのものの美しさを素直に伝えてくれます。ネルソン・リドルによる編曲と指揮は、歌声を包み込むように寄り添い、オーケストラの響きは柔らかく広がります。カレンの歌は落ち着いていながらも芯があり、聴き手の心を自然に音楽の世界へと導いてくれる一曲です。

  2. メドレー
    Medley: Superstar / Rainy Days and Mondays

    カーペンターズを代表する二曲を一つにつないだ、流れの美しいメドレーです。「Superstar」では、カレンの低音が持つ深い表情が際立ち、静かな切なさが漂います。そこから「Rainy Days And Mondays」へ移ることで、気持ちの内側をそっと見つめるような空気が生まれます。リチャードの編曲は自然で、二曲の雰囲気が無理なく溶け合い、時間をかけて熟した歌として響いてきます。

  3. ひとりぼっちのあいつ
    Nowhere Man

    ビートルズの楽曲を、温かみのある音作りで包み直した一曲です。原曲の持つ少し乾いた印象とは異なり、ここでは穏やかで落ち着いた空気が流れています。カレンの歌声は言葉を丁寧に運び、歌詞の内容を静かに伝えてくれます。演奏は控えめで、歌を中心に据えた構成が心地よく、安心して耳を預けられる仕上がりです。

  4. アイ・ガット・リズム
    I Got Rhythm

    この曲では、明るく弾むリズムの中で、カレンの意外な一面が楽しめます。歌とともにドラムも担当しており、リズムを楽しみながら音楽と向き合っている様子が伝わってきます。ネルソン・リドルの指揮によるオーケストラは軽快で、楽曲全体に楽しさを加えています。アルバムの中でも、少し表情の異なる活き活きとした一曲です。

  5. ダンシング・イン・ザ・ストリート
    Dancing in the Street

    短い演奏時間の中に、エネルギーがぎゅっと詰まった楽曲です。カレンの歌は明るく、リズムに乗りながら前へ進んでいきます。演奏も歯切れが良く、サックスの音色が曲に勢いを与えています。全体として軽やかで、気分を切り替えてくれるような役割を果たしています。

  6. ディジー・フィンガーズ
    Dizzy Fingers

    インストゥルメンタル曲でありながら、表情豊かな一曲です。ピアノを中心とした演奏は流れるようで、指の動きが目に浮かぶような軽快さがあります。ネルソン・リドルの指揮のもと、オーケストラが上品に彩りを添え、アルバムにほどよい変化をもたらしています。

  7. ユーアー・ジャスト・イン・ラヴ
    You're Just in Love

    この曲は、アーヴィング・バーリンによって書かれたスタンダード・ナンバーです。男女の掛け合いを前提にした構成が特徴で、ここでもカレンとリチャードの声のやり取りが自然な形で生かされています。二人の声質の違いがはっきりしているからこそ、会話のような流れが心地よく感じられます。

    アレンジは親しみやすく、スチール・ギターの音色が楽曲に柔らかな彩りを加えています。楽しさを前面に押し出すというより、余裕をもって歌っている雰囲気が伝わり、聴き手にも自然な明るさが広がります。また、この曲の前奏と後奏で使われているフレーズは、1981年発表のアルバム『メイド・イン・アメリカ(Made In America)』の冒頭曲「遠い想い出」にも用いられており、リチャードが大切にしていた音楽的アイデアのつながりを感じさせます。

  8. カレン/エラ・メドレー
    Karen/Ella Medley

    エラ・フィッツジェラルドとカレンが並ぶ、特別な存在感を持つメドレーです。二人の歌声はそれぞれに個性がありながら、無理なく一つの流れを作り出しています。ネルソン・リドルの編曲と指揮が、その橋渡し役を果たし、世代を越えた歌の魅力を感じさせてくれます。

  9. メドレー
    Medley: Close Encounters/Star Wars

    このメドレーは、1970年代を代表する二つの映画音楽を素材にした、非常にエネルギーのあるインストゥルメンタル作品です。もともとはテレビ・ショーで演奏されていた際、演出として花火や効果音が加えられていましたが、このアルバムではそれらの音を取り除き、純粋に音楽だけを作品として仕上げています。

    演奏はダイナミックで、展開も大きく動きます。リチャードのピアノを軸に、オーケストラが厚みを持って重なり、映像を思わせるスケール感がはっきりと伝わってきます。視覚的な演出を排したことで、旋律や構成の力強さが際立ち、ステージ向けの演奏がアルバム作品として再構築されている点が、このメドレーの大きな特徴です。

  10. リーヴ・イエスタデイ・ビハインド
    Leave Yesterday Behind

    この曲は、カレンの柔らかくも力強いボーカルが印象的なバラードです。リチャードのピアノアレンジとカレンの歌声が絶妙にマッチし、私たちの心に染み渡る一曲となっています。未発表曲として、このアルバムで初めて陽の目を見たことで、多くのファンに新たな感動を与えました。

    この曲の前奏部分は、1970年に発表された「ふたりの誓い(For All We Know)」からヒントを得ており、リチャードのアレンジにその影響が見られます。

  11. カーペンターズ/コモ・メドレー
    Carpenters/Como Medley

    ペリー・コモとの共演によるこのメドレーは、異なる世代の歌が自然に並ぶ構成になっています。複数の楽曲が続く中でも流れは滑らかで、それぞれの曲が持つ親しみやすさが損なわれていません。カレンの歌声はどの場面でも安定しており、コモの落ち着いた歌唱と並んでも違和感がありません。リチャードの編曲は全体を一つにまとめる役割を果たしており、多くの曲が登場しながらも散漫な印象を与えない点が印象的です。

  12. 夢のカリフォルニア
    California Dreamin

    この演奏では、原曲の持つフォーク寄りのイメージから大きく踏み出し、当時のカーペンターズがステージや別編成で培ってきた音楽的要素が前面に出ています。リズムの取り方や旋律の処理には、リチャード・カーペンター・トリオやスペクトラム名義で活動していた時期に見られるジャズ的な感覚がはっきりと表れており、楽曲全体に張りつめた推進力が感じられます。

    カレンの歌い方も、この曲では情感を伸ばす方向ではなく、ビートを意識した明確な発声が中心となっています。伴奏陣も積極的に動き、サックスを含むアンサンブルが楽曲を力強く牽引しています。よく知られた楽曲でありながら、演奏の方向性によってここまで表情が変わることを示す一例として、アルバムの中でも強い印象を残す仕上がりです。

  13. レインボウ・コネクション
    The Rainbow Connection

    『レインボウ・コネクション』は、もともと映画『マペットの夢みるハリウッド』の主題歌として知られる曲ですが、カーペンターズのバージョンでは、カレンの澄んだ歌声が一層引き立っています。リチャードのプロデュースにより、オリジナルの夢見るような雰囲気を保ちつつ、カーペンターズらしい温かみが加わっています。

  14. ヒッツ・メドレー'76
    Hits Medley '76

    このメドレーは、「シング」「遥かなる影」「ふたりの誓い」「涙の乗車券」「オンリー・イエスタデイ」「愛にさよならを」で構成されています。選曲と展開からは、1976年のロンドン公演を思わせるステージ感が強く伝わってきます。

    それぞれの曲は短くまとめられていますが、流れは非常に整理されており、次の曲へと自然につながっていきます。演奏は勢いがあり、コンサートのハイライトをそのまま切り取ったような臨場感があります。スタジオ作品でありながら、観客の前で演奏しているかのような空気を感じさせる構成です。

  15. アンド・ホエン・ヒー・スマイル
    And When He Smiles

    この曲は、1971年に放送されたBBCのテレビ・スペシャルで披露された音源をもとにしています。前曲のメドレーとは対照的に、音数を抑えた静かな構成で、カレンの歌とドラムが中心となっています。

    シンプルな編成だからこそ、カレンの歌声の表情やリズムの取り方がはっきりと伝わってきます。アルバムの最後にこの曲が置かれていることで、にぎやかな流れのあとに自然と気持ちが落ち着き、静かな余韻を残したまま作品を聴き終えることができます。

* 曲目は初回盤に基づいて表記しています。
* シングル・チャートは特に記載がない限り、ビルボード・ホット100を参照しています。

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村田 博幸
Hiroyuki Murata
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