カーペンターズ大全集

From The Top

  • 初回発売日:
    1991年12月15日

  • レーベル:
    A&M

  • プロデュース:
    リチャード・カーペンター

リチャードが封印を解いた『未発表音源』の数々が収録された豪華4枚組ボックス

カーペンターズの音楽は、多くの人々に愛され続けています。その美しいメロディーとカレン・カーペンターの透き通るようなボーカルは、時代を超えて心に響きます。1991年に発表された4枚組ベスト盤『カーペンターズ大全集』は、彼らの音楽の歴史を余すことなく収めた貴重なボックスセットです。このアルバムを通して、カーペンターズが歩んできた道のりを振り返り、その魅力を再確認してみましょう。

アルバムの背景

『カーペンターズ大全集』は、1991年にリリースされた4枚組のボックス・セットです。このアルバムは、カーペンターズのデビュー前から1980年代に至るまでの代表曲を年代別に収録し、彼らの音楽的進化を振り返ることができる内容となっています。リリース当時、カレン・カーペンターの死から8年が経過しており、彼女の美しい歌声を再び愉しむことができるという意味でも、多くのファンにとって感慨深い作品となりました。

アルバムの特徴

本作は、リチャード・カーペンター本人が『公式に世に出すべき価値がある』と判断した未発表音源の集大成です。特にデビュー前に録音されたアセテート盤やデモテープなど、リチャード自身が演奏の存在を記憶の隅に置いていたような希少音源の数々を、1991年の時点で最高純度のマスターから復元・定義したのがこのボックスセットです。特に1枚目には未発表曲やデビュー前の非常に希少な音源が集中して収録されており、コアなファンにとっても新たな発見がある内容となっています。

もちろん、カーペンターズの代表曲を幅広く収録している点も特徴です。ヒットシングル「トップ・オブ・ザ・ワールド」、「イエスタデイ・ワンス・モア」、「スーパースター」など、彼らの代表曲が網羅されています。

これまで歴史の一部としてしか語られることのなかったこれらの音源の数々が初めて収録されたことで、カーペンターズの音楽がどのように進化し、成熟していったのかをより深く理解することができます。初期のデモ音源や、未発表曲を聴くことで、彼らの音楽のルーツや成長過程を垣間見ることができます。

主な未発表音源と貴重テイク

リチャード・カーペンターは本作の編纂にあたり、自宅ガレージの奥底に眠っていた膨大な量のアセテート盤を自ら発掘・精査する作業を行いました。これらは当時、スタジオでのテスト録音や友人へのプレゼント、あるいはデモ目的で数枚のみプレスされた極めて脆弱な「記録」に過ぎないもので、リチャードは、ノイズに埋もれ、擦り切れたこれら複数のアセテート盤の中から、歴史的価値があり、尚且つ作品として耐えうるテイクを執念深く選別し、最新技術を駆使して本作を「正典(From The Top)」へと昇華させたと言えます。

ここでは、リチャードが「封印を解いた」とされる音源の中でも、特に歴史的価値の高い楽曲を挙げます。

「ルッキング・フォー・ラヴ(Looking For Love)」
「アイル・ビー・ユアーズ(I'll Be Yours)」

1966年にカレン・カーペンターが地元の小レーベル「マジックランプ(Magic Lamp)」と契約を結び、初めて商業的に録音した記念すべきデビューシングルです。

リチャードによる書き下ろし曲を、弱冠16歳のカレンが歌い上げたこれらの楽曲は、わずか500枚ほどがプレスされました。しかし、発売からしばらく経った頃、レーベルの拠点が火災に見舞われ、会社はそのまま倒産。この悲劇的な事故により、当時のプレス盤は散逸し、長い間「幻の音源」として語り継がれてきました。

本作においてリチャードがこの音源を収録したことは、単なる初期音源の提示ではありません。火災という不運によって一度は歴史の闇に消えかけた「カレンの第一歩」を、25年の時を経てリチャードが自らの手で「救出」し、正史(From The Top)へと繋ぎ止めたという、極めて深い兄妹愛の象徴でもあるのです。

本作におけるリチャードの解説によると、ここに収録されているのは「一度も針を通していない新品のアセテート盤からのトランスファー。」です。

「アイス・ティー(Iced Tea)」

リチャード・カーペンター・トリオ時代の才気が爆発する、極めて重要なインストゥルメンタル・テイクの一つです。

本曲は、1966年にハリウッド・ボウルで開催された「バトル・オブ・ザ・バンド(Battle of the Bands)」での伝説的なパフォーマンスを記録したもので、同イベントの関係者に向けて制作されたLP盤に、「イパネマの娘(The Girl From Ipanema)」と共に収録されました。

本作に収録されている音源は、リチャードが当時から大切に保管していた「擦り切れたアセテート盤」から復元されたものです。この一曲がきっかけとなり、後にRCAレコードとの契約を勝ち取ったという背景を考えると、カーペンターズ誕生前夜の野心と才気が凝縮された一級の史料と言えます。

「グッドナイト(Goodnight)」

メジャーデビュー直前に録音された非常に貴重なデモ音源。

本曲はビートルズのアルバム『The Beatles(ホワイト・アルバム)』の終曲として知られるジョン・レノン作品のカバーです。ビートルズのオリジナル版がオーケストラを用いた大胆で装飾的な演奏であったのに対し、スペクトラム版はカレンのメインボーカルによる、静かで親密な「子守唄」としての側面を強調したアレンジが施されています。

若き日のカレンのソロ歌唱の魅力を最大限に引き出した未発表テイク。ボーカルを主軸に置いたこの初期音源は、カーペンターズの原点を知る上で欠かせない一次資料です。

ここに収録されているのは1969年5月9日に録音されたもので、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校(CSULB)の関係者に配られました。

「恐れないで(Don't Be Afraid)」

こちらも「スペクトラム」時代のデモ音源。後の公式リリース版と比較すると、コーラスの積み方や楽器の定位に、より実験的で若々しいエネルギーを感じることができます。

カレンのボーカルも、後年の「包み込むような低音」の魅力に加え、この時期特有の瑞々しさと力強さが共存しており、10代にしてすでにプロフェッショナルな録音に耐えうる技術を習得していたことが分かります。「未発表」として片付けるにはあまりに完成度が高く、リチャードがこのボックスセットの冒頭にこれらを配置した意図が、彼らの「正当なルーツ」の提示にあることが理解できます。

「ワンダフル・パレード(Your Wonderful Parade)」

このデモバージョンは、1969年のデビューアルバム『オファリング(Offering)』収録版とは決定的な違いを見せています。

アルバム版では、リンカーン大統領の演説からインスピレーションを得たとされる、あの劇的で荘厳なイントロダクション(ナレーションとブラスによる演出)が特徴的ですが、ここで聴けるのは、リチャードの類稀なるメロディセンスと、スペクトラム時代から続くタイトなアンサンブルの純粋な形です。後年のドラマチックな演出へと昇華される前の、楽曲本来のポテンシャルが剥き出しになっており、リチャードがデビューに向けていかに「プレゼンテーション」を意識したアレンジを構築していったかという、ディレクターとしての進化の足跡を証明する極めて重要な音源です。

海軍ラジオ番組『ユア・ネイヴィー・プレゼンツ』とのタイアップ

本作のディスク1にはカーペンターズの歴史を語る上で欠かせない多数の発売当時の未発表音源が「公的な記録」としての収録されていますが、中でもディスク1後半の海軍ラジオ局とのコラボ音源は非常に興味深い内容となっています。

リチャードは本作のライナーノーツにおいて、1970年3月、カレンとリチャード、そして当時のツアー・バンドと共に、米海軍制作のラジオ番組『Your Navy Presents』のために計12曲のスタジオ・レコーディングを行ったことを明記していおり、ここには「ゲット・トゥゲザー(Get Together)」やそれに続く「インタビュー(Interview)」といった、彼らの音楽的成熟を示す重要なテイクが収録されています。

2024年4月19日、ここに収録された2曲を含む全音源が海賊盤『Your Navy Presents』として出回り、その前後にもライヴ音源なども同時多発的に流通しましたが、これらは正規のものではないため、歴史の正確な継承という観点から強い警鐘を鳴らす必要があります。

つまり、本作に収められた2曲こそが、海軍ラジオという公共の電波を通じて世界に届けられたものとして発表された「正典」であり、純粋な音楽的記録であると断言できます。

ジャケットの変遷

本作のジャケットも、興味深い変遷を辿っています。発売初期には、プラスチックケースに1枚ずつ収められたCDが、LPレコードサイズの外箱に収められていました。ジャケットのデザインは白地にカーペンターズのロゴが銅箔押しされ、前面には彼らが発表した名曲の数々が薄い緑色の文字で描かれていました。しかし、販売店の要望により、よりスリムになったブック型のジャケットに変更されました。この変更により、収納しやすさや持ち運びの利便性が向上しましたが、デザイン自体は新たにデザインされることなく、横が圧縮される形になりました。このため、初期の豪華なパッケージもファンにとっては魅力的なものでした。

時代を超えて受け継がれる音楽

『カーペンターズ大全集』は、リリースから長い年月が経った今でも、多くの音楽ファンに愛されています。カーペンターズの音楽は、シンプルでありながら心に響くメロディーと、感情豊かな歌詞が特徴で、これらの要素が次世代のアーティストにも影響を与え続けています。

また、このアルバムを通じてカレン・カーペンターの偉大さを再認識したファンも多く、彼女の歌声は永遠に生き続けることとなりました。カーペンターズの音楽は、時代を超えて受け継がれていくことでしょう。

『カーペンターズ大全集』は、カーペンターズのファンだけでなく、音楽を愛するすべての人々に聴いてほしい一枚です。このアルバムを通じて、カーペンターズの音楽が持つ魅力を改めて感じてみてください。

曲目リスト

* 曲目は初回盤に基づいて表記しています。

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村田 博幸
Hiroyuki Murata
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